筆ペンだけで描く場合に比べて
水筆を加えると

  • 中間色を作る
  • 境界線をぼかす
  • グラデーションをかける

といった表現がしやすくなります

僕は17年間
アニメーションの背景の仕事で
水彩絵具や筆を使ってきました

その経験から考えると
水筆の役割は単に「ぼかす」ことではなく
見せたいところ以外のコントラストを弱めたり
グラデーションで視線を誘導したりすること
にあると感じています

下の画像は
筆ペンと薄墨の筆ペンだけで描いたスケッチと
そこに水筆も加えて描いたスケッチを
並べたものです

「筆ペンと薄墨のみで描いたスケッチと、水筆を加えてぼかしやグラデーションを使ったスケッチの比較」
「筆ペン・薄墨のみで描いたスケッチと、水筆を加えて描いたスケッチの比較」

筆ペンや薄墨の筆ペンでスケッチしていると
「ここ、水筆でぼかしたいな〜」
と思うことがありました

「あ〜、ぼかしたいのに……!」
と、ちょっとストレスを感じることもありました

実際に水筆も使って描いてみると
筆ペンや薄墨の筆ペンだけでは難しかった
「ぼかし」が使いやすくなりました

そこであらためて

  • 筆ペン(墨・薄墨)だけで描いた場合
  • 筆ペン(墨・薄墨)+水筆で描いた場合

この2つを
「水筆を使うと何ができるんだろう?」
「水筆を使わないとできないことは何だろう?」
と考えながら描き比べてみました

この記事では
使用した画材を紹介したあと
水筆を使った3つのぼかしと
その使い方を見ていきます

画材について

今回使用した画材は
こちらです

水筆

ぺんてる みず筆 アクアッシュ FRH-B 大

筆ペン

ぺんてる 筆ペン 中字
カートリッジセット

こちらで紹介しているのは
カートリッジセットです

カートリッジを交換しながら使っていると
次第に筆先が揃わなくなってきます

ただ、使い込んだ穂先はバラけやすく
新品とは違った使い心地があります

興味のある方は試してみてください

薄墨

ぺんてる 筆ペン うす墨インク・クロ

画用紙

マルマン 画用紙リーフ A4

表と裏があるので注意してください
表面が凸凹しています

今回のスケッチで使用した水筆、墨と薄墨の筆ペン、画用紙
「今回使用した水筆・筆ペン・画用紙」

筆ペンと水筆の性質を確認

「ぺんてる筆ペン中字と薄墨インク・クロで描いた線の濃さの比較」
「墨と薄墨の筆ペンで描いた色の濃さの比較」

耐水性の確認

今回は
ぺんてる 筆ペン中字と
ぺんてる 筆ペン うす墨インク・クロを使用しています

墨と薄墨の筆ペンで描いて
十分に乾かしたあと
水筆と薄墨の筆ペンで
こすってみました

結果が下の図です

「ボトルタイプの墨汁と2種類の筆ペンを乾燥後に水筆でこすった比較。筆ペンの墨と薄墨は水で溶けた」
「乾燥後の墨と薄墨を水筆でこすり、耐水性を確認した結果」

ボトルタイプの墨汁は
乾いたあとに水筆でこすっても溶けませんでしたが
今回確認した2種類の筆ペンは
乾いたあとでも水筆で溶けました

耐水性は商品によって異なるため
使用前に確認してみてください

ぼかし具合の確認

どの方法が
グラデーションを作りやすいのか確認しました

「墨・薄墨の筆ペンと水筆を組み合わせ、wet on wetなど複数の方法で作ったグラデーションの比較」
「筆ペンと水筆を使ったグラデーション方法の比較」

wet on wetでは
最初の筆ペンが乾かないうちに
次の筆ペンや水筆でぼかしています

色味の確認

上の図の
一番上と一番下を見比べてください

今回使用した組み合わせでは
墨と水筆で作った中間色の方が
暖色寄りに見えました

色味も
メーカーや筆ペンの種類によって異なると思うので
興味のある方は確認してみてください

「3つのぼかし」と「2つの使い方」

「3つのぼかし」

水筆を使うと
ぼかし表現が簡単にできるようになります

筆ペンの墨や薄墨だけでも
ある程度ぼかすことはできますが
水筆を使うと
よりコントロールしやすくなります

僕がよく使っていたのは
次の3つです

  • 中間色を作る
  • 境界線をぼかす
  • グラデーションをかける

2つの使い方

この3つのぼかしは
主に次の2つの目的で使っていました

  1. コントラストのコントロール

    「中間色を作る」「境界線をぼかす」ことで
    見せたいところ以外のコントラストを弱め
    注目させたいポイントを際立たせます
  2. 視線を誘導する

    「グラデーションをかける」ことで
    焦点となる場所へ
    自然と目が向かうようにします

このように
「何のためにぼかすのか」を整理すると
ただ何となくぼかすのではなく
目的を持って使いやすくなりました

ここからは
それぞれのぼかしについて詳しく見ていきます 

中間色を作る

下の図の左側は
筆ペンと薄墨の筆ペンを使った作例

右側は
そこに水筆を加えた作例です

「筆ペンと薄墨のみで描いた箱と、水筆で中間色を加えて三面を描き分けた箱の比較」
「筆ペン・薄墨のみの場合と、水筆を加えた場合の三面の描き分け」

筆ペンと薄墨だけでは
作例のようにハイライト部分を塗り残すか
輪郭線で明るい部分を表現しない限り
立体感のある三面を描き分けることができません

水筆を使えば
中間色を作ることができるため
上図の右側の作例のように
自然に三面を塗り分けることができます

「雲や山を中心に水筆で中間色を加えて描いた屋外スケッチ」
「水筆で中間色を加えた雲や山のスケッチ」

上の図では
右側の作例の雲や山を中心に
中間色を使っています

境界線をぼかす

境界部分をぼかすことで

  • 空気遠近によるぼけで「距離」を表現する
    (遠くをぼかす)
  • カメラのピントによるぼけで「焦点」を表現する
    (焦点以外をぼかす)

といった使い方ができます

「遠くのものをぼかす空気遠近と、焦点以外をぼかすカメラのピント表現を比較した図」
「境界をぼかして『距離』と『焦点』を表現する考え方」

どちらも
見せたい部分以外のコントラストを弱めることで
焦点をはっきりさせています

距離によって
コントラストを変える考え方については
下の記事で詳しく紹介しています
遠景・中景・近景でコントラストを変える考え方を見る

また、下の図は
上が畑の植物
下が林の奥にあるスポーツ施設の照明
を描いたスケッチです

「畑の植物とスポーツ施設の手前にある林に、焦点や距離を表すぼかしを使ったスケッチ」
「畑の植物とスポーツ施設の手前の木々にぼかしを使ったスケッチ」

どちらもぼかしを使っていますが
効果が控えめなので
少し分かりづらいかもしれません

そこで参考として
「ぼかす前」と「ぼかした後」の
比較画像も用意しました

一見すると小さな変化ですが
比べてみると
焦点となる部分に
目が行きやすくなっていることが分かります

グラデーションをかける

これは科学的な根拠を調べたわけではなく
僕の個人的な感覚ですが
ベタ塗りは
境界線がはっきりしているぶん
その境界に視線が向かいやすい印象があります

一方でグラデーションは
色の変化に沿って
明るい部分から暗い部分へ
あるいは暗い部分から明るい部分へ
視線が移っていくように感じます

これらのイメージを図解したのが
下の図です

「ベタ塗りとグラデーションで、視線の動き方の違いを矢印で示したイメージ図」
「ベタ塗りとグラデーションによる視線の動きのイメージ」

そこで
見せたい部分のコントラストが強くなるように
グラデーションをかけたのが下の図です

グラデーションをかけたスケッチと
デジタルで作ったベタ塗りの画像を比べると
焦点へ自然に目が向かう感覚が
分かりやすいのではないでしょうか

「道路や空などにグラデーションを加え、画面内の視線の流れを調整したスケッチとベタ塗りとの比較」
「グラデーションを利用して視線を誘導したスケッチ」

上の作例のように
道路が真っ白なままだと
画面全体に視線が分散しやすく
平坦に見えて
奥行きも感じにくくなります

道路にグラデーションをかけることで
手前に視線を引き寄せたり
奥へ誘導したりと
視線の流れをコントロールできます

僕がアニメ背景の新人だったころ
先輩から
現実にベタ塗りの空間なんてないんだ
何にでもグラデーションをかけろ!」
と言われたことがあります

その言葉がずっと頭に残っているので
筆ペンや薄墨の筆ペンだけで
スケッチしているときに
「道路にグラデーションをかけたいのに……!」
とストレスを感じていたのだと思います

もしかすると
自分でも気づかないうちに
「ベタ塗り恐怖症」
になっているのかもしれません

まとめ

筆ペンと薄墨の筆ペンだけで描く場合に比べて
水筆を加えると
できる表現の幅が広がります

今回描き比べてみて

  • 中間色を作る
  • 境界線をぼかす
  • グラデーションをかける

という3つの方法を

  • コントラストをコントロールする
  • 視線を誘導する

という目的で使っていたことが分かりました

また
「水筆を使うと何ができるのか?」
「水筆を使わないと何ができないのか?」
と考えてみることで
自分が何をしたかったのかも
少し整理できました

たとえば
色数をあえて減らしたり
小さな紙に描いてみたり
自由度の少ない環境で描くことで
「本当にやりたいこと」や
「できなくてモヤモヤしていたこと」が
はっきり見えてくることがあります

自分でも気づいていなかった思い込みに気づく
きっかけにもなるかもしれません

今回、僕が気づかなかったことも
まだまだあると思います

ぜひ自分でも
手を動かして試してみてください

今回は
水筆を使って
見せたいところ以外のコントラストを弱めたり
グラデーションで視線を誘導したりする方法を
紹介しました

では逆に
見せたい場所を目立たせるには
どこに強いコントラストを置けばいいのか?

下の記事では
グレーのマーカーを使った練習を通して
主役を目立たせる明暗の考え方を紹介しています
主役を目立たせる明暗のコントラストの考え方を見る

ABOUT ME
後藤太郎
アニメ背景美術の仕事に17年間携わり、現在はフリーのイラストレーターとして活動しています。 このブログでは、絵の練習・背景制作・屋外スケッチについて、実際に描いたり試したりして分かったことをまとめています。 詳しい経歴・制作実績は、画面下部の「運営者情報」からご覧いただけます。