絵の中で雲を描くとき
ただ空を埋めるためだけに
描いているわけではありません

雲には、たとえば

  • 空の流れを見せる
  • 見せたいもののシルエットを強調する
  • 季節を伝える
  • 白の基準にする
  • 画面の視線を整理する

といった役割があります

雲の形を描く練習をしても
すぐに上手くなるのは
なかなか難しいと思います

でも
「何のために雲を描くのか」
を考えるだけなら
すぐにでも試すことができます

僕は17年ほど
アニメ背景の仕事をしてきました

仕事では空や雲を描くこともありますが
最初から雲を上手く描けたわけではありません

以前は
雲の形をそれらしく描くことばかり考えていて
雲の配置や役割までは
あまり意識できていませんでした

この記事では
僕が絵を描くときに考えている
「雲の役割」について整理します

雲の流れで視線誘導する

雲は、空の流れを見せて
視線を誘導するために使えます

たとえば下図のように
地平線に近づくほど
筆の動きを水平にしていくと
空の奥行きや雲の流れを表現しやすくなります

雲による視線誘導の例
雲による視線誘導の例

また下の図にある通り
集中線のように一点へ向かって
筆を動かすことで
雲の流れと焦点を作ることもできます

集中線のような雲の例
集中線のような雲の例

青い空の部分を描きながら
白い雲の部分を残していくと
筆のストロークによって
空全体に動きを出すことができます

このような表現を
僕のいたアニメ背景の会社では
「抜き雲」と呼んでいました

ただ、この描き方は
絵具でやるとかなり難しいです

そもそも描く機会が少なかったこともありますが
僕はアニメ背景歴5年目くらいでも
まったく描けませんでした

アニメの『AKIRA』の冒頭のシーンや
『ヨルムンガンド』にも
印象的な「抜き雲」があります

雲の流れを意識して見たことがない方は
一度、そういう視点で見てみると
面白いと思います

シルエットを強調する

雲は、建物や山などの
シルエットを強調するためにも使えます

雲で建物全体のシルエットを強調した例
雲で建物全体のシルエットを強調した例

たとえば上図にあるように
屋根に沿って雲を配置すると
建物の形がはっきり見えやすくなります

白い雲と暗い建物が並ぶことで
明暗のコントラストが強くなり
自然とそこに目が行きます

雲の配置や形を工夫することで
画面の中で最初に見てほしい部分を
作ることができます

何を目立たせるために
背景をどう整理するのかについては
桜を目立たせるために青空や雲をどう考えたかを
まとめた記事
でも書いています

下の図を見てみてください

ぱっと見て最初に目が行くところが
違うのではないでしょうか

雲で建物の一部のシルエットを強調した例
雲で建物の一部のシルエットを強調した例

おそらく上図では
左の図は画面中央
右の図は画面左
に、最初に目が行くのではないでしょうか

この部分は
雲と建物の対比によって
明暗のコントラストが一番高くなっています

アニメ背景会社の新人時代に
先輩から
「ここに、こういう雲を描くと
建物のシルエットがはっきりしてカッコいい」
と教えてもらったことがあります

そのとき
「確かにカッコいい」
「プロっぽい」
「すぐに真似したい」
と思いました

当時の僕は
雲を雲っぽい形にするだけで精一杯だったので
雲の形だけでなく
配置にも意味がある
と知ったことは
かなり大きな発見でした

これならすぐにでも真似できそう!
と思えたことも魅力
だったと思います

季節を伝える

季節の説明とシルエットの強調の例
季節の説明とシルエットの強調の例

雲は、季節を伝えるためにも使えます

入道雲を描けば
夏らしさが出ます

イワシ雲のような雲を描けば
秋の空気感を出しやすくなります

もちろん
雲だけで季節が決まるわけではありません

でも
空にどんな雲を置くかによって
絵全体の印象はかなり変わります

また
大きな入道雲を建物の後ろに配置すると
季節感を出しながら
建物のシルエットも強調できます

ひとつの雲に
複数の役割を持たせることもできます

白の基準にする

白の基準としての雲の例
白の基準としての雲の例

雲は、白の基準としても使えます

たとえば
画面の中に白い建物がある場合
そのままだと
「真っ白な建物」に見えてしまうことがあります

でも
雲に真っ白を使うと
建物には少し色がついていることが
わかりやすくなります

雲の白があることで
建物の白さや色味を
比較しやすくなるからです

このように
雲は画面全体の色を判断するための
基準にもなります

視線が画面外へ逃げないようにする

視線が画面外へ逃げないようにするための雲の例
視線が画面外へ逃げないようにするための雲の例

雲は
視線が画面外へ逃げないようにするためにも使えます

たとえば
上図の右側の絵の黒い部分のように
画面の端に雲を配置して
周囲を少し暗く絞ると
中央に視線を集めやすくなります

もし雲がなければ
視線が画面の外へ流れやすくなってしまいます

雲は
空を描くためだけのものではなく
焦点に視線を誘導したり
視線が画面外へ逃げないようにするためにも使えます

まとめ

雲を描くときは
ただ何となく空に置くのではなく
「この雲にはどんな役割があるのか」
を考えてみるとよいと思います

たとえば

  • 空の流れを見せる
  • 建物や山のシルエットを強調する
  • 季節を伝える
  • 白の基準にする
  • 視線が画面外へ逃げないようにする

といった役割があります

他にもいろいろな使い方や考え方が
あると思います

雲の形をすぐに上手く描くのは
難しいかもしれません

でも
雲の配置を考えたり
意味を持たせたりすることは
すぐに試せます

「雲が上手く描けない」
という漠然とした悩みも

  • どんな雲を描きたいのか
  • 何を見せるために雲を使うのか
  • どこに雲を置きたいのか

と分けて考えると
具体的な練習や観察につなげやすくなります

自分の絵の中で
雲にどんな役割を持たせられるか
一度考えてみると
雲の見方が少し変わるかもしれません


雲を実際に描く練習をしたい方は
同じ形・同じ配置の雲をくり返し描いて
苦手意識を減らした練習についてまとめた記事

参考になるかもしれません

雲だけでなく
形・空間・光・色・画面構成など
絵を描くときに考えていることの全体像を
まとめた記事
もあります

ABOUT ME
後藤太郎
17年ほどアニメ背景美術の仕事をしてきました。現在は、絵の練習・背景制作・屋外スケッチについて、実際に描いたり試したりしながら気づいたことを発信しています。