細かな形や質感を描き込む前に
まず空間を大きな「面」と「層」として捉えると
整理しやすくなります

たとえば地面や建物、水面などを
大きな「面」として捉え
遠景・中景・近景の重なりを「層」として考えます

僕は17年間、アニメ背景の仕事に携わってきました

ここで紹介するのは
アニメ背景業界で共通して使われている考え方ではなく
その経験の中で僕自身が身につけてきた整理の仕方です

僕の場合、背景を描くときには

  1. 「面」や「層」による空間表現
  2. 立体感・固有色・質感などの表現

という順番を意識しています。

この記事では
この考え方を実際の写真や
僕が描いた作例を使いながら紹介します

まず風景を「面」として考える

下の2枚の写真を(アニメの)背景として描く場合
空間を表現するために
どんなポイントを意識して描きますか?

一見、複雑に見えますが
左の写真に関しては「地面」という大きな「面」
右の写真に関しては「建物」と「道路」の2つの「面」が
表現できているかどうかがポイントになります

つい質感表現に気を取られて描き込みがちですが
表現するべき空間を壊してしまっては本末転倒です

1つの面として考える

「面」として考えるとはどういうことか
ラフですがグレーで説明します

画像

奥が明るくても暗くても構いませんが
今回の作例では奥を暗く描いています

地面の奥が暗くなるように
「面」に沿ってグラデーションをかけたら
このグラデーションを枯草の部分と考えます
(手前から奥まで面積が大きいので
枯草を基準にしました)

固有色の異なるアスファルトや砂利道、植え込みは
範囲指定を使って「色相・彩度」で
明度を調整して上図を作成しています

広い面積をベタ塗りしたり
地面の奥行きに合わない陰影をつけたりすると
せっかく作った「面」としての空間が壊れてしまいます

このグラデーションを「面」の奥行き表現と考えて
その空間を壊さないように
気を付けながら描き込んでいきます

実際の制作では
このようにグラデーションを作ってから描くことは滅多になく
色を選んでペイントしながら空間を作っていきます

ここでは
「面」として作った空間を壊さないように描くことを
わかりやすく説明するために
あえて単純なグラデーションで説明しています

2つの面として考える

2枚目の写真については
下図のように2つの「面」に見えるかどうかが重要です

画像

葉っぱに覆われていたり
赤や緑など固有色が違っていたりしても
建物全体としての明暗のまとまりから大きく外れると
ひとつの「面」として見えにくくなります

次に遠景・中景・近景を「層」として考える

もし下図の上段のような写真を背景として描くとき
どのようなことに注意しますか?

画像

イラストの場合は何も動きませんが

もしキャラクターが動き回る
アニメやゲームの背景の場合

上図の下段のように
柵の手前にキャラが入ってくる場合や
水上にボートが入ってくる場合だけでなく
両方の場合も考えられます

そういった場合は
それぞれの場合で
表現しなければいけないポイントが変わってきます

 

ここでは
遠景・中景・近景がミルフィーユのように
奥行き方向へ重なっている状態を
「層」として考えます

上の図では
遠景―空と対岸
中景―水面
近景―地面と手すり
という3つの「層」に分けて考えます

  • 手前にキャラが立つ場合
  • 水上をボートが移動する場合

ともに遠景、中景、近景として
層の重なりを表現することに変わりありません

では違いは何か?
水面を平面として表現する必要があるかどうかです

手前にキャラが立つ場合

この場合
水面そのものを「面」として強く表現する必要性は
低くなります

  • 遠景より中景が手前に
    中景より近景が手前に見えていればいい

→ 必要なのは主に「遠景・中景・近景の前後関係」
→ 「層」の表現が重要

水上をボートが移動する場合

中景の水面を平面として表現しなければならない

  • 水面が平面に見えなければならない
  • ボートに対して遠景がきちんと遠くに見えなければならない
  • ボートに対して近景がきちんと近くに見えなければならない

→ 前後関係に加えて「ボートが乗っている水面の奥行き」も必要
→ 「層」+「面」の両方が重要

といった違いがあります

画像

「面」や「層」だけで考えられない空間もある

ここまで「面」と「層」という考え方で
空間を整理してきましたが
すべての空間をこの2つで考える必要はありません

たとえば霧に包まれた風景や星空のように
特定の「面」や「層」よりも
空間そのものの広がりや
奥行きを表現することが重要な場合もあります

「面」と「層」は
空間を整理するために
僕が使っている考え方のひとつです

大切なのは
必ず「面」や「層」に当てはめることではなく
その絵で何を空間として表現する必要があるのかを
考えることだと思います

まとめ

僕自身、仕事で後輩の絵をチェックするようになってから
ようやくこうした視点を意識するようになりました

描き始める前に

  • 「面」を表現する必要があるのか
  • 「層」を表現する必要があるのか
  • その両方が必要なのか
  • それ以外の空間そのものを表現する必要があるのか

を整理しておくだけでも
描くべきポイントが明確になり
不必要な描き込みを減らせると思います

描き始める前に
「この絵では
何を空間として表現する必要があるのか?」と
一度考えてみてください

ABOUT ME
後藤太郎
アニメ背景美術の仕事に17年間携わり、現在はフリーのイラストレーターとして活動しています。 このブログでは、絵の練習・背景制作・屋外スケッチについて、実際に描いたり試したりして分かったことをまとめています。 詳しい経歴・制作実績は、画面下部の「運営者情報」からご覧いただけます。